40代 跡取り娘様
結婚相談所のカウンセラーとして多くのご縁を見守ってきましたが、あの日ほど「お導き」という言葉を深く感じたことはありませんでした。
柔らかな笑顔が印象的な女性でした。
生まれは寺の家でしたが、学生時代から実家を離れ、一般企業に長く勤めてこられました。20年の月日が経ち、年老いていくご両親と、お寺を支えるお檀家様の思いに触れたとき、心の奥に小さな声が響いたと言います。
——「この寺を、自分の手で守っていこう。」
しかし、その道には現実の壁がありました。
住職になってくださる男性が必要であること。
同じ宗派の、僧侶資格を持つ、自坊がなく、婿入り可能な、未婚の男性。
しかも40〜50代という年齢条件。——それは、ほとんど皆無に等しい条件でした。
初めての面談で、彼女は静かに尋ねました。
「率直に伺いたいのですが、そんな方……いらっしゃるでしょうか。」
私は正直に答えました。
「確率だけで言えば、限りなくゼロに近いです。厳しい現実だと思います。」
入会を見送るつもりでお話ししましたが、翌日、彼女から電話がありました。
「昨日はありがとうございました。厳しい現実を教えてくださったのはあやこさんだけでした。他の相談所では“いますよ、大丈夫ですよ”と軽く言われましたが、友人からも「早々にいないよ、居るなんてそんな簡単に言えないよ」とも言われました。私は正直に話してくださる方を信じたいと思いました。行動しないと、何も変わらりません。自分に今できることをしようと思います。“あやこさんの相談所”でがんばりたいです。」
その言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなりました。
——行動する人。
応援したいと思わせる女性。
強い女性だな、そう感じました。
ご入会後、いくつもの内観ミーティングを重ね、プロフィールの言葉を丁寧に整え、心の準備も整ったある日。いよいよお相手探しをされた、初めての日、しかも検索開始2時間後。
彼女の画面に一人の男性が現れました。
年齢48歳、僧籍あり、自坊なし。宗派も同じ。
そしてプロフィール欄には——「婿入り可」。
思わず目を見開き、私はすぐに男性が所属する相談所様にご連絡差し上げました。
すると驚くべきことに、その男性も“彼女と同じく、今月ご入会されたばかり”だったのです。
お互いのご状況を共有し、すぐにお見合いのご縁を整えることができました。
お会いになった当日。
その男性は、穏やかで明るく、社会経験も豊かで、人懐っこい笑顔の方でした。
初対面とは思えないほど自然に会話が弾み、時折こぼれる笑い声に、お互い惹かれ合ったそうです。
——これは偶然ではなく、お導きなのだと。
奇跡は待っている人にではなく、勇気を出して動いた人に訪れる。
その真実を、彼女が身をもって教えてくれたように感じました。
後日、彼女から届いたメールにはこう綴られていました。
「この出会いは、お寺を守る使命と私の人生そのものに光をくれました。自分の未来に今ワクワクしています。あの日、一歩を踏み出した自分を、ようやく誇りに思えます。」
“信じて動くこと”
“誠実に寄り添うこと”
その二つが重なったとき、奇跡は確かに生まれるのだと、とてもとても心が温かくなりました。
あなたはキセキを信じますか。
毎日の暮らしの中にある幸せ。それもひとつの「キセキ」です。感謝したいものですね。
ご縁がつながり、ようやく出会えた同世代の僧侶。
けれど、その最初の返事は、私たちの想像とは少し違うものでした。
彼は、在家から出家し、仏門の世界に入った方。
人生の選択として、すでに「僧侶として生きる」ことを定めていたからこそ、結婚という選択肢は、自分の今世には関係のないもの——そんなふうに一度は区切りをつけていたのです。だからこそ、彼は静かに言いました。
「ありがたいお話ですが…結婚は、私には縁がないと思っています。」
ここで終わってしまうご縁も、きっと少なくありません。
けれど、今回は違いました。
私たちが大切にしたのは、「結婚」だけを目的にするのではなく、
“お寺を守るために、何ができるか”という視点で、丁寧に言葉を重ねることでした。
跡取り娘さんが守りたいのは、「結婚」というカタチではなく、
これまで受け継がれてきたお寺の営みそのもの。
そして彼が守りたいのは、出家して選び取った仏門の道と、僧侶としての役割。
その二つが、すっと重なった瞬間がありました。
彼は、あるときこう話してくれました。
「もし…私が“お寺を守るための役割”として、新しいお勤め先として、ここで一緒にお寺を支えることができるなら。それなら、私にも意味がある気がします。」
結婚のために人生を変えるのではなく、僧侶としての務めを全うする延長線上に、
「迎え先(お婿として入る)」というカタチがある。
その捉え方ができたとき、彼は気持ちが楽になり、心は少しずつ固まっていきました。
“一緒にお寺に勤める”という時間。
行事の準備。お勤め。日々の段取り。
言葉にしなくても共有できる空気。
迷ったとき、相手の事情や覚悟を軽んじない姿勢。
その積み重ねの中で生まれるのが静かな信頼。
お寺を守るための“パートナー”として勤める過程で、
彼女との信頼のその先に、気持ちが寄り添う事ができれば——」
お寺のご縁は、ただ「好き」という気持ちだけでは進めないことがあります。
でもその代わり、使命と暮らしと覚悟が重なるところに、強く、長いご縁が生まれます。
「結婚は自分には縁がない」
そう言っていた彼が選んだのは、結婚そのものではなく、“お寺を守るために、共に歩む道”でした。
もしあなたも、跡取り娘様として、ひとりで抱える思いがあるなら。
その思いを、最初から全部理解してくれる人がいなくても大丈夫です。
いちばん大切なのは、役割から始まり、信頼が生まれ、人生が結び合う——
そんなご縁を育てることを知ること。
私たちは、その道筋を、丁寧に伴走していきます。
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